みなし残業時間制って?

みなし残業時間制って?

 泉亮介

1 みなし残業時間制とは

今回はみなし残業時間制についてのお話しです。 最近は導入されている企業も多いので,「みなし残業」という制度についての認知度も上がってきている気がします。そのため,聞き覚えのある方,実際に職場で採用されているよという方も多いかと思います。固定残業時間制等々呼び名は様々ですが。 さて,この「みなし残業制度」ですが,皆さん正確に理解をされていますでしょうか。まず,みなし残業の基本的な部分ですが,この制度は,あらかじめ所定の残業時間に対する残業代を設定し,基本給とともに支払う制度です。実際の残業時間がみなし残業時間を超える場合には,超過分の支払いの必要がありますが,残業代の支払いにつき一定程度の予測性を持たせることができます。 この制度は,会社側からすれば,常に一定程度の残業代を支払うことになるので,支払い漏れが生じにくく,その都度細かく計算をする必要も省けるという点でメリットがあり,労働者側からしても,みなし残業代の部分は必ず支払いがなされるという点でメリットがあります。 以上のように,みなし残業制度は,双方にとってメリットのあるものですが,正しく運用を行わないと,残業代としてみなしで支払っていた金銭が,残業代として支払ったものと評価できないとして,さらに追加で残業代を支払わなければならないケースも起こりえるので,運用には注意が必要です。

2 高知観光事件

みなし残業制度での運用の注意点がよく理解できる判例として,最2小判平成6年6月13日のいわゆる「高知観光事件」が有名です。 「高知観光事件」については別コラムで詳しく解説しますが,概要としては以下のようなものになります。 原告はタクシー運転手,被告はタクシー会社で,被告は原告に対して,給料として,月の売上高に一定の歩合を乗じた金額を支払うというもので,深夜や時間外労働を行っても,その場合にプラスして支払ったりはしない給与体系でした。 争点としては,被告が原告に支払っているものが,みなし残業代として評価できるかどうかというものです。 これに対して,判例は時間外労働や深夜労働をしても増額がなされず,そして通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することができない場合には,割増賃金が支払われたということは困難であるので,使用者は別途に割増賃金を支払う義務があるとしています。 つまり,普段から支払われているものが,残業代にあたるものか,通常の給与にあたるものか区別がつかないのであれば,みなし残業代とは評価できないとして,別途残業代を支払う義務があるとしたのです。 このように,みなし残業制度は,正しく運用をしないと会社側が二重払いの危険があるため,導入するには注意が必要です。また労働者にとっては,みなし残業代として払っているという会社の主張であきらめずに,本当に請求が出来ないものかを慎重に考える必要があると言えるでしょう。